巣立てなかったつばめ

去年の春、散歩が趣味の父はスーパーの入口の隅につばめの巣を見つけた。
そこで父は休みの日は毎日そこを通り、つばめの成長をカメラに収め、成長記録を取ることにした。
小さな頭を並べた5羽の小さなつばめは、日に日に大きくなり、もうそろそろ巣立ちだろうかというところまできた。

ある日、いつものようにつばめを撮ろうとスーパーに行くと、つばめの巣がボロボロに壊されていた。
父はショックを受けた。
一体どうしてこんなことになったのか、5羽のつばめは何処へ行ったのか。

ふと顔を上げ空を見ると、親鳥と思われるつばめがカラスを追い回していた。
カラスに比べると遥かに小さなつばめが執拗にカラスを追い回している。
そこで父は理解した、あのカラスが5羽のつばめを食べたのだと。

小さなつばめが、戦って敵う相手ではない大きなカラスをいつまでも追いかけている。
そんなことをしても子供達はもう帰って来ないけれど、そうせずにはいられない。
子を失った親の気持ちは鳥も人間も同じなのだと父は思ったそうだ。 

だから梨子は勝手に死んだりするなよ、とも言われた。

父が撮り続けていた5羽のつばめの成長記録は、巣立ちを前にして突然終わってしまったのだった。